ユーザーが求める「早く、安く、うまい」システム開発を目指して - トヨタがOutSystemsと共に歩んだ10年の“ローコード・ジャーニー”
世界有数の自動車メーカーであるトヨタ自動車では、レガシーシステムのマイグレーション、およびデジタル領域での開発生産性向上を目的に2014年よりOutSystemsの導入と活用推進に取り組んできた。業務部門で利用する小規模なアプリケーションを皮切りに社内の各部門だけでなくグループ企業やSIパートナーなども巻き込みながら導入領域を拡大。2020年には適用範囲をグループ全社に拡大した。トヨタグループにおけるITのビジネス貢献、DX推進においてOutSystemsは重要なツールのひとつとなっている。
約30%
工数削減を実現23社
グローバルのグループ企業で導入済み70
様々な領域のプロジェクトでの利用OutSystemsについて深く知る
トヨタ自動車株式会社 について
戦略的目標
- レガシーモダナイゼーション
アプリケーション種別
- 効率性
- 拡張性
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OutSystemsについて深く知る
課題
“デジタル”をツールとして活用しながらクルマを通じて提供できる新しい“価値”を模索
世界有数の自動車メーカーであるトヨタ自動車。社会が直面する「100年に1度」とも評される大きな転換点において、同社は「自動車を作る会社」から「モビリティカンパニー」へのトランスフォーメーションを急ピッチで進めている。
導入から約10年を経て、トヨタグループの開発プロジェクトにおいて“OutSystems”は当たり前の選択肢になっています。デリバリーのスピードとクオリティが以前より向上しており、ユーザーの満足度も上がっていると感じます
稲垣 篤 氏 トヨタ自動車株式会社 IT業革推進部 部長
トヨタ自動車株式会社 情報システム本部長の日比 稔之 氏は「人々が“クルマ”という商品に求める価値そのものが大きく変化してきていると感じる」と話す。
「クルマを“所有する”ことに価値があった時代から“移動”という体験から生み出される価値を享受するための“手段”としてクルマが捉えられる時代になりました。人々がクルマに対して求めるものも変化しています」(日比氏)
社会における価値観の変化を加速している要因のひとつには、デジタル技術の急速な発展も挙げられる。最新の技術を活用し世の中をより良い方向へ変えていこうとする「デジタルトランスフォーメーション」(DX)の波に、いかにうまく呼応していくか。その取り組みも同社にとって重要な経営課題のひとつだという。
「我々は“デジタル”は方法論でしかないということを一貫して唱えています。デジタルという道具を活用して、どのように仕事のやり方や商品が提供できる価値を変えていくことができるのか。そうした思いを軸に、全社員が変革への取り組みを進めています」(日比氏)
デジタルをツールとして駆使しながら、自動車業界と社会にクルマを通じてどんな変革をもたらせるか。どんな新しい価値を生み出すことができるのか。そうしたことを考え、実践できる基盤を作っていこうとしています
日比 稔之 氏 トヨタ自動車株式会社 情報システム本部長
ソリューション
レガシーな開発言語の呪縛から脱却し生産性と柔軟性が高い開発環境を目指す
トヨタ自動車を中核とするトヨタグループではデジタル活用に不可欠なシステムの開発基盤としてOutSystemsを採用している。本番案件への適用を視野にOutSystemsでのPoC(概念実証)に着手したのは2014年のことだった。導入におけるキーパーソンの1人であるトヨタ自動車株式会社 IT業革推進部 部長 の稲垣 篤 氏は、当時、「レガシーシステムのモダナイズと、その周辺でデジタルによる改革を迅速に進めていくための仕組み作りが自分の使命だと感じていた」と話す。
稲垣氏の当初のミッションは、トヨタで長年にわたって利用されている、部品表をはじめとした大規模なレガシーシステムのモダナイズだったという。
「今後、日本の労働人口が減っていき、特にIT人材の不足はグローバル規模で深刻化するという未来も警告されていました。レガシーのモダナイズと合わせ、将来的な労働環境の変化に対してもITを使って対応できるような環境作りをしていきたい。そのためのツールが必要だと考えていました」(稲垣氏)
こうした環境を構成するツールとして、同社では当時“超高速開発ツール”と呼ばれていた、さまざまなプロダクトの評価を行っていた。OutSystemsも有力な候補のひとつだった。
「トヨタのレガシーシステムにはPL/IやCOBOLなど、さまざまな言語が使われています。こうした言語を扱えるエンジニアは近い将来に定年を迎えます。そうしたエンジニアたちが低い学習コストで新しい環境を理解できること、加えて知識や経験が浅い人でも容易に仕組みを理解してシステムを作れるような世界を作っていきたいと考えていました。ビジュアル環境をベースに多様なシステムを構築できるOutSystemsは、そのニーズに合ったものでした」(稲垣氏)
稲垣氏は、リリース後のシステムをユーザーのフィードバックを通じて柔軟かつ高品質に改善できる仕組みとしてもOutSystemsを高く評価していた。ユーザーがシステムへ求める要件について、稲垣氏は「早く、安く、うまく」と表現する。「早く」は「開発期間の短縮」、「安く」は「開発コストの圧縮」、そして「うまく」は「成果物の品質の高さ」を意味する。
「これらの要件に加え、グローバル企業として海外拠点への展開を視野に入れたとき、OutSystemsというツールは高いレベルで条件に合致すると判断しました」(稲垣氏)
稲垣 篤 氏 トヨタ自動車株式会社 IT業革推進部 部長
OutSystemsの本格導入に先がけて稲垣氏はポルトガルのOutSystems本社を自ら訪ねた。その社風や開発に携わる人々の思いを知りたかったというのが大きな理由だったという。稲垣氏は本社のエグゼクティブやエンジニアとの対話を通じて導入の決意を強くした。
結果
着実に実績を積み重ねて導入範囲を拡大、トヨタグループの重要な開発基盤の一角に
トヨタ自動車における最初の本格的なOutSystemsアプリケーションは「板金システム」と呼ばれる、ユーザー部門で使われる比較的小規模なアプリケーションだった。OutSystemsで開発を行ったことで、従来型開発と比較して約30%の工数削減を実現できたという。
このプロジェクトで得た成果を足がかりに同社ではOutSystemsの本格展開を加速。調達部品生産管理システムのマイグレーションを筆頭に適用範囲を段階的に拡大していった。
「初期には、現場のエンジニアから“こんなツールで開発はできない”という反発もありました。ちょうどその当時にトヨタの中で開発生産性やリードタイムの向上を目指すアクティビティが動き出しており、そのためのツールとしてOutSystemsをエントリーしました。それがきっかけでエンジニアリングIT領域だけでなく、コーポレートITの領域などでもOutSystemsに興味を示すプロジェクトが少しずつ増えてきました」(稲垣氏)

OutSystemsの展開にあたっては「開発生産性の向上にチャレンジしてみたいプロジェクトでは、ぜひOutSystemsを試してみてほしい。分からないことがあれば、社内のヘルプデスクに聞いてくれればいつでも答える」というスタンスを基本としており、これは導入当初から現在まで大きく変わっていないという。しかし、採用を通じて成果を出すプロジェクトが増えればOutSystemsに関心を示すプロジェクトも増えていく。そこで必要となったのはヘルプデスクの充実と開発人材の育成だ。
「導入後しばらくはOutSystemsを実際に使えるエンジニアの人数が圧倒的に少ないことが問題でした。エンジニアの教育や、OutSystemsで生産性を上げるための標準的な仕組みをどのように作っていくかには、かなり苦労をした記憶があります」(稲垣氏)
トヨタ自動車では、トヨタシステムズやパートナー企業の協力のもとでヘルプデスクの体制拡充、事例や活用ノウハウの蓄積と発信、開発に利用できる共通部品の整備などを並行して進めてきた。2020年には、OutSystemsの適用範囲がトヨタグループ全体に拡大されたが、こうして構築されてきた仕組みが現在ではCoE(Center of Excellence)として機能し拡大を続けている。
「活用範囲がグループ全体に広がって規模も大きくなると、直接のユーザーだけでなく開発パートナーにもOutSystemsを使ってもらいたいという要望が出てきます。それに応えるためには、OutSystemsになじみのないパートナーにもツールを正しく理解してもらい、グループの標準に準じた正しいアプリケーションを作ってもらえる枠組みを用意する必要があります。そのために、コンソーシアムを組織して関係者間で緊密なコミュニケーションを図ったり、トヨタシステムズやパートナー企業と連携しつつヘルプデスクやCoEの活動を強化していま す」(稲垣氏)

こうした活動の中では、トヨタ自動車やトヨタシステムズ、トヨタグループに属する人たちだけではなく、パートナー企業も含めてOutSystemsによる開発生産性向上に向けた情報交換や技術共有を行っている。賛同するパートナーから出向者を受け入れてOutSystemsに関するトレーニングを施して帰任してもらうといった教育スキームも構築中という。
また、トヨタグループではOutSystemsの導入初期から従来型のウォーターフォールによる開発だけではなく、より相性が良い「アジャイル」の手法による開発にもチャレンジしている。
アジャイル開発で高い成果を挙げるには、適したツールを使うだけではなく、開発に関わるチーム編成やシステム作りに対するメンバーの意識変革なども不可欠だ。トヨタ自動車株式会社 IT業革推進部 ビジネス業革推進室 経営管理支援G グループ長の松永 裕樹 氏は、現場でそうした変革に取り組むリーダーの1人である。松永氏はアジャイル開発手法のひとつである「Scrum」のトレーニングを受けており、現在はコーポレート部門におけるアジャイル開発プロジェクトにおいてスクラムマスターを務めているという。
システム開発に関わる中で、ユーザーから開発に投げっぱなしになるイメージが強いウォーターフォール的な進め方があまり好きではありませんでした。アジャイルではユーザーと開発者とが対等な関係性で向き合い、作っているものが本当にユーザーにとって価値があるものなのかを確かめながら開発を進めます。そうした体制を円滑にする開発基盤としてのOutSystemsには強く共感しており、全社的にその活用体制が整ってきたことは大きなターニングポイントになると感じています
松永 裕樹 氏 トヨタ自動車株式会社 IT業革推進部 ビジネス業革推進室 経営管理支援G グループ長
2023年10月現在、トヨタグループでは国内外を含めて23社でOutSystemsを導入している。中でもトヨタ自動車では、さまざまな領域の70以上のプロジェクトで利用されているという。レガシーモダナイゼーションだけではなく、レガシーシステムとユーザーをつなぐ業務フロントエンド開発における活用も広がっている。
導入から約10年が経過し、多くのプロジェクトを通じた活用ノウハウが蓄積されつつある。同時にPoCやコンソーシアムの運営による組織的な活用支援体制も整いはじめた。稲垣氏は「ようやくOutSystemsが組織の中で当たり前のように使えるようになってきたと感じている」とこれまでの取り組みを振り返る。
この取り組みは今後さらに強化される計画だ。OutSystemsを採用したプロジェクトの評価指標の確立、プラットフォームとしてのOutSystemsの機能を活用した運用保守体制の強化なども直近のテーマとして視野にあるという。
「加えて近年、可能な部分からクラウドシフトを推進していこうという動きがあります。インフラとしてはクラウドを使いつつ、クラウドベンダーによるロックインを避けるために開発環境や実行環境にはOutSystemsを活用していくという方向性もあるのではないかと考えています」(稲垣氏)
OutSystemsはトヨタグループのDX推進において重要な役割を果たすツールのひとつとなりつつある。導入初期から取り組みをリードしてきた稲垣氏は、OutSystemsに対し「今後も、開発生産性の向上にフォーカスした製品開発を続けてほしい」と話した。
OutSystemsには、直近の日本が直面する労働人口の減少とIT人材の不足という課題に開発生産性の切り口からアプローチしていってほしいと思います。近年、生成型AIのようなテクノロジーが注目を集めていますが、例えばOutSystemsの中にそうした技術を取り込むことで、言語スキルの乏しいビギナーでもアプリケーションを短期間で実装できるような世界が実現できるのではないかと思っています。開発生産性向上に最新の技術がどう寄与できるかという部分にフォーカスしながら、今後も堅実な製品開発をしてくれることを期待しています
稲垣 篤 氏 トヨタ自動車株式会社 IT業革推進部 部長
【企業情報】
トヨタ自動車 株式会社
所在地:愛知県豊田市トヨタ町1番地
設立:1937年8月28日
資本金:6,354億円(2023年3月31日現在)
従業員数:7万0,056名(連結 37万5,235名、2023年3月31日現在)
自動織機メーカーの自動車部門を母体として1937年に設立された日本最大手の自動車メーカー。戦後の高度経済成長期においてモータリゼーションの進展をけん引しながら、国内だけでなくグローバルへも進出。世界的な自動車業界再編の流れの中でグループ規模の拡大を続け、2022年にはトヨタグループ全体で約1048万台と、3年連続で世界トップの販売台数を記録した。現在の「100年に1度」と呼ばれる社会と業界の変革期において「自動車をつくる会社」から、人々の「移動」に関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティカンパニー」へのモデルチェンジに取り組んでいる。